第3問 損益計算書の作成問題。保証率・改訂償却率の指示はダミーです!
第3問は【財務諸表】の作成問題でした。
未処理事項2の「減価償却の記述」や決算整理事項3の「保証率・改訂償却率の指示」など、受験生を惑わせるためのトラップがいくつか仕掛けられていましたが、問題全体の難度・ボリュームは平均レベルです。
受験生アンケートでは、50%弱の方が「普通ぐらいだった」と回答しています。
解答手順
未処理事項1(債権の貸倒れ)
未処理事項2(保険金の受け取り)
未処理事項3(固定資産の売却)
決算整理事項1(貸倒引当金の設定)
決算整理事項2(売上原価の算定)
決算整理事項3(固定資産の減価償却)
決算整理事項4(のれんの償却)
決算整理事項5(社債の評価替え)
決算整理事項6(退職給付引当金の設定)
決算整理事項7(貯蔵品への振り替え)
決算整理事項8(利息の未払い)
決算整理事項9(法人税等の計上)
決算整理事項10(税効果会計の適用)
仕訳集計時の解答テクニック
参考:出題の意図
解答手順
問題資料Ⅱの「未処理事項」と、問題資料Ⅲの「決算整理事項」の仕訳を下書きし、答案用紙の損益計算書を作成しましょう。
未処理事項1(債権の貸倒れ)
(借)貸倒損失 6,000
(貸)売掛金 10,000
回収不能の売掛金10,000円のうち、前期に発生した4,000円は貸倒引当金を取り崩して処理し、当期に発生した6,000円は貸倒損失で処理します。
- 前期以前に発生した債権の貸倒れ:前期の決算を通過しているので貸倒引当金の設定対象になっています。よって、この債権が貸倒れた場合は貸倒引当金を取り崩して処理し、不足分があれば貸倒損失で処理します。
- 当期に発生した債権の貸倒れ:前期の決算を通過していないので貸倒引当金の設定対象になっていません。よって、この債権が貸倒れた場合は全額を貸倒損失で処理します。
未処理事項2(保険金の受け取り)
(借)火災損失 100,000 ※1
(貸)未決算 600,000
※1 600,000円-500,000円=100,000円(貸借差額)
問題文に「保険会社より火災保険金 ¥ 500,000 の支払いが決定した旨の通知があった」とあるので、未決算600,000円と未収入金500,000円との差額を火災損失で処理します。
また、問題文の「決算整理前残高試算表に示されている減価償却費 ¥ 25,000 は、期中に火災により焼失した建物の減価償却費を月割で計上したものである」は、未決算を計上するさいに減価償却費を月割りで計上したことを意味しています。
(借)減価償却費 25,000
(借)未決算 600,000
(貸)建物 ×××
今回の仕訳には影響しませんので、そのままにしておいて構いません。でもこんなふうに書かれたら、減価償却費を調整する必要があるのかな…と考えちゃいますよね。
未処理事項3(固定資産の売却)
(貸)土地 500,000
(貸)固定資産売却益 50,000 ※2
※2 550,000円-500,000円=50,000円(貸借差額)
土地の売却に関する取引が記帳されていないため、売却代金550,000円と帳簿価額500,000円との差額を固定資産売却益で処理します。
決算整理事項1(貸倒引当金の設定)
(貸)貸倒引当金 16,000
※3 (360,000円+550,000円-10,000円)×2%-(6,000円-4,000円)=16,000円
売上債権の期末残高を計算し、それに2%を乗じて要設定額を求め、最後に貸倒引当金の残額との差額を貸倒引当金繰入で処理します。
- 売上債権の期末残高:900,000円
- 受取手形:360,000円
- 売掛金:550,000円-10,000円(※未処理事項1)=540,000円
- 貸倒引当金の要設定額:900,000円×2%=18,000円
- 貸倒引当金の残額:6,000円-4,000円(※未処理事項1)=2,000円
- 貸倒引当金の繰入額:18,000円-2,000円=16,000円
決算整理事項2(売上原価の算定)
(貸)繰越商品 220,000
(借)繰越商品 340,000 ※5
(貸)仕入 340,000
(借)棚卸減耗損 2,400 ※6
(借)商品評価損 4,220 ※7
(貸)繰越商品 6,620 ※8
(借)仕入 6,620
(貸)棚卸減耗損 2,400
(貸)商品評価損 4,220
※4 決算整理前残高試算表の「繰越商品 220,000」より
※5 @400円×850個=340,000円
※6 @400円×(850個-844個)=2,400円
※7 (@400円-@395円)×844個=4,220円
※8 2,400円+4,220円=6,620円(貸借差額)
1本目の仕訳の期首商品棚卸高は、問題資料Ⅰの決算整理前残高試算表の「繰越商品 220,000」から金額をひっぱってきましょう。
2本目の仕訳の期末商品棚卸高は、問題資料Ⅲの「帳簿棚卸高:数量850個、帳簿価額@400円」から金額を計算しましょう。
期末商品棚卸高:@400円×850個=340,000円
3本目の仕訳の棚卸減耗損および商品評価損は、問題資料Ⅲの「帳簿棚卸高:数量850個、帳簿価額@400円」「実地棚卸高:数量844個、帳簿価額@395円」から金額を計算しましょう。
棚卸減耗損:@400円×(850個-844個)=2,400円
商品評価損:(@400円-@395円)×844個=4,220円
4本目の仕訳は、問題文に「棚卸減耗損と商品評価損は売上原価の内訳科目として処理する」とあるので、3本目の仕訳で計算した棚卸減耗損と商品評価損を仕入に振り替えます。
決算整理事項3(固定資産の減価償却)
(貸)建物減価償却累計額 50,000 ※9
(貸)備品減価償却累計額 115,200 ※10
※9 3,000,000円÷40年×8か月/12か月=50,000円
※10 (900,000円-324,000円)×20%=115,200円
※11 50,000円+115,200円=165,200円(貸借差額)
建物は当期の8月1日に取得しているので、8月1日から3月31日までの8か月分を月割計算します。
備品は保証率(0.06552)と改訂償却率(0.250)が与えられていますが、通常の償却率で計算した金額が償却保証額を上回るため、前者の金額をもって当期の減価償却費とします。
- 償却率:1÷10年×200%=20%
- 通常の償却率で計算した金額:(900,000円-324,000円)×20%=115,200円
- 償却保証額:900,000円×0.06552=58,968円
- 当期の減価償却費:115,200円 > 58,968円 → 115,200円
決算整理事項4(のれんの償却)
(貸)のれん 80,000
※12 240,000円÷(5年-2年)=80,000円
問題文の「のれんは、2016年4月1日に他企業を買収した取引から生じたもの」から、前期末(2018年3月31日)までに2年分を償却していることが分かります。
よって、決算整理前残高試算表に計上されている「のれん 240,000」を、残りの期間3年(=5年-2年)で均等償却します。
決算整理事項5(社債の評価替え)
(貸)有価証券利息 1,400
※13 (700,000円-694,400円)÷(5年-1年)=1,400円
問題文の「満期保有目的債券は、2017年4月1日に他社が発行した社債(…)を額面 @¥ 100 につき @¥ 99 の価額で取得したものであり」から、前期末(2018年3月31日)において1年分(2017年4月1日~2018年3月31日)の評価替えを行っていることが分かります。
(貸)現金など *****
(貸)有価証券利息 *****
つまり、決算整理前残高試算表に計上されている「満期保有目的債券 694,400」は、1年目の評価替え後の金額であるため、額面総額700,000円との差額を残りの期間4年(=5年-1年)で調整します。
決算整理事項6(退職給付引当金の設定)
(貸)退職給付引当金 81,000
当期繰入額を退職給付費用で処理します。
決算整理事項7(貯蔵品への振り替え)
(貸)租税公課 25,000
期末未使用高を租税公課から貯蔵品に振り替えます。
決算整理事項8(利息の未払い)
(貸)未払費用 7,200
※14 900,000円×1.2%×8か月/12か月=7,200円
8月1日から3月31日までの8か月分の利息を月割計算して未払計上します。
決算整理事項9(法人税等の計上)
(貸)仮払法人税等 18,000
(貸)未払法人税等 26,124 ※16
※15 (139,080円+8,000円)×30%=44,124円
※16 44,124円-18,000円=26,124円(貸借差額)
問題文の「当期の費用計上額のうち ¥ 8,000 は、税法上の課税所得の計算にあたって損金算入が認められない」から、税法上の課税所得および法人税、住民税及び事業税の金額を求めましょう。
- 税法上の課税所得:税引前当期純利益139,080円+損金不算入8,000円=147,080円
- 法人税、住民税及び事業税:147,080円×30%=44,124円
法人税、住民税及び事業税の金額を求めたら、決算整理前残高試算表に計上されている「仮払法人税等 18,000」との差額を未払法人税等で処理します。
- 仮払法人税等:18,000円
- 未払法人税等:44,124円-18,000円=26,124円
決算整理事項10(税効果会計の適用)
(貸)法人税等調整額 2,400
※17 8,000円×30%=2,400円
問題文の「損金算入が認められない費用計上額 ¥ 8,000(将来減算一時差異)について、税効果会計を適用する」から、将来減算一時差異が発生していることが分かるので、これに法定実効税率(30%)を乗じて繰延税金資産を計上します。
将来減算一時差異とは?
将来減算一時差異は、差異が解消されるときに課税所得(とそれを元に計算される税金)がマイナスされる一時差異です。
将来の税金が安くなるということは、実質的には法人税を前払いしている形になるので、この「将来の税金が安くなる権利」を繰延税金資産(資産)という勘定を使って処理します。
- 将来減算一時差異が増えた場合 → 法人税の前払分が増える → 繰延税金資産が増える
- 将来減算一時差異が減った場合 → 法人税の前払分が減る → 繰延税金資産が減る
仕訳集計時の解答テクニック
本問は損益計算書のみを作成する問題のため、貸借対照表に関する勘定科目の増減は解答に関係ありません(=集計する必要もありません)。
損益計算書に関する勘定科目のみを効率よく集計するために、また、集計漏れやケアレスミスを防ぐために、下書きが完成した時点で貸借対照表に関する勘定科目に打ち消し線を引いて集計から除外しておきましょう。
参考:出題の意図
【出題の意図】
本問は、問題用紙に示された決算整理前残高試算表、未処理事項および決算整理事項にかかわる資料に基づいて、答案用紙の損益計算書を完成させる問題です。税効果会計の適用など、新しい出題区分にかかわる会計処理も一部含まれていますが、2級の商業簿記における財務諸表作成問題としては、基本的で標準的な問題です。
出題のねらいは、未処理事項にかかわる処理も含め、決算整理の処理を適切に行い、その結果を決算整理前残高試算表に反映させて、損益計算書に計上される収益および費用の勘定科目とその金額を正しく求めることができるか、一連の総合的な決算処理能力の修得を確かめることにあります。また、報告式の損益計算書とそこにおける損益の表示区分について十分に理解しているかどうかを確かめることもねらいとしています。引用元:出題の意図・講評(日本商工会議所)