第3問 作問者ハンパないって!もうハンパないって!こんなん解けへんやん普通。
第151回の第3問で過去最高難度の問題(連結精算表)が出題されましたが、今回はそれをも凌駕する連結精算表が出題されました。
特に「棚卸資産に含まれる未実現利益の消去」の処理はすさまじい難度で、試験時間中に完答できた受験生は0.1%もいないと思います。
難易度アンケートでも、90%以上の受験生が「かなり難しかった」と回答しています。アンケート結果の偏りが、本問の衝撃をリアルに表していると思います。
本問は、比較的点数の取りやすい「土地」「のれん」「買掛金」「売上高」「のれん償却」あたりで8点~10点取れればじゅうぶんです。
必ず解答すべき取引
開始仕訳
のれんの償却に関する仕訳
子会社利益の振り替えに関する仕訳
非償却性資産(土地)に含まれる未実現利益の消去に関する仕訳
債権・債務および内部取引の相殺消去に関する仕訳
できれば解答したい取引
親子会社間の手形に関する仕訳
解答する必要のない取引
棚卸資産に含まれる部品Aの未実現利益の消去に関する仕訳
棚卸資産に含まれる付属機器Bの未実現利益の消去に関する仕訳
必ず解答すべき取引(①~⑨)
開始仕訳
問題資料1の(1)に記載されているS社の純資産を借方に計上し、S社株式の購入価額および非支配株主持分(純資産合計の20%)を貸方に計上し、貸借差額をのれんで処理します。
こののれんは、問題文に「20年にわたり定額法で償却を行っている」とあるので、1年あたり2,400千円(=48,000千円÷20年)ずつ償却していきます。
(借)資本剰余金 37,500
(借)利益剰余金 90,000
(借)のれん 48,000 ※2
(貸)子会社株式 270,000
(貸)非支配株主持分 55,500 ※1
※1 (150,000千円+37,500千円+90,000千円)×20%=55,500千円
※2 270,000千円+55,500千円-150,000千円-37,500千円-90,000千円=48,000千円(貸借差額)
のれんの償却に関する仕訳
まず、第1年度から第3年度までの3年分の償却額を計算し、連結損益計算書項目である「のれん償却」を「利益剰余金」に置き換えて処理します。
(貸)のれん 7,200
※3 @2,400千円×3年=7,200千円
次に、第4年度の1年分の償却額を計算し、連結損益計算書項目である「のれん償却」で処理します。
(貸)のれん 2,400
※4 @2,400千円×1年=2,400千円
子会社利益の振り替えに関する仕訳
まず、答案用紙のS社の個別財務諸表の「利益剰余金 163,000」と「当期純利益 36,000」から、×3年3月31日時点のS社の利益剰余金の金額が分かります。
×3年3月31日時点のS社の利益剰余金=163,000千円-36,000千円=127,000千円
また、問題資料1の(1)の「利益剰余金 90,000千円」から、×0年4月1日時点のS社の利益剰余金の金額が分かるので、×3年3月31日時点の金額との差額で×0年4月1日から×3年3月31日までのS社の利益剰余金の増加額を求めることができます。
さらに、問題文の「S社は支配獲得後に配当を行っておらず」から、×0年4月1日から×4年3月31日までに配当を行っていないことが分かるので、この利益剰余金の増加額は(×1年度から×3年度までの)当期純利益の合計額になります。
(×1年度から×3年度までの)当期純利益の合計額=127,000千円-90,000千円=37,000千円
上記の計算を行ったうえで、仕訳を考えましょう。
まず、第1年度から第3年度までの当期純利益の合計額のうち非支配株主に帰属する分を計算し、連結損益計算書項目である「非支配株主に帰属する当期純利益」を「利益剰余金」に置き換えて処理します。
(貸)非支配株主持分 7,400
※5 37,000千円×20%=7,400千円
次に、第4年度の当期純利益のうち非支配株主に帰属する分を計算し、連結損益計算書項目である「非支配株主に帰属する当期純利益」で処理します。
(貸)非支配株主持分 7,200
※6 36,000千円×20%=7,200千円
非償却性資産(土地)に含まれる未実現利益の消去に関する仕訳
親子会社間の土地の売買は、連結グループ全体で考えると連結グループ内で土地が移動しただけです。
よって、連結財務諸表の作成にあたり「親会社が計上した土地売却益8,500千円」と「子会社が計上した土地60,000千円のうちの利益部分8,500千円」を相殺消去します。
(貸)土地 8,500
※7 60,000千円-51,500千円=8,500千円
債権・債務および内部取引の相殺消去に関する仕訳
親子会社間の売買は、連結グループ全体で考えると連結グループ内で商品やその他の資産が移動しただけなので、連結財務諸表の作成にあたり内部取引高を相殺消去します。
また、親子会社間の取引により生じた債権・債務の期末残高も、連結グループ全体で考えるとプラマイゼロなので、連結財務諸表の作成にあたり相殺消去します。
ここで、問題資料3をご覧ください。左右一対で1セットと考えた場合、3つのセットは左右の金額が一致していますが、残りの3セットは金額が一致していません。
- 金額が一致しているもの
- (P社の)未収入金 8,000千円 ⇔(S社の)未払金 8,000千円
- (P社の)買掛金 210,000千円 ⇔(S社の)売掛金 210,000千円
- (P社の)仕入(売上原価) 910,000千円 ⇔(S社の)売上高 910,000千円
- 金額が一致していないもの
- (P社の)売掛金 66,000千円 ⇔(S社の)買掛金 59,400千円
- (P社の)支払手形 120,000千円 ⇔(S社の)受取手形 0千円
- (P社の)売上高 363,000千円 ⇔(S社の)部品仕入(売上原価)356,400千円
まずは、金額が一致しているものをそのまま相殺消去しましょう。問題資料3から勘定科目と金額をひっぱってくるだけです。
(貸)未収入金 8,000
(借)買掛金 210,000
(貸)売掛金 210,000
(借)売上高 910,000
(貸)売上原価 910,000
金額が一致していないものは、問題資料3の①②を参考に金額を調整し、左右の金額を一致させたうえで相殺消去しましょう。
まず、問題資料3の①に「S社においてP社から仕入れた部品A6,600千円の検収が完了していないため未計上であった」とあるので、S社の部品仕入(売上原価)および買掛金の増加として処理します。
なお、この部品Aは第4年度の期末現在、S社内において検収作業を待っている状態(=まだ外部に売れていない)のため、売上原価に含めて処理するのは適当ではありません。
よって、売上原価から部品Aの期末在庫を処理する勘定科目(原材料)に振り替えます。
(貸)買掛金 6,600
(借)原材料 6,600
(貸)売上原価 6,600
(貸)売掛金 66,000
(借)売上高 363,000
(貸)売上原価 363,000
ここまでの仕訳を正確に処理できれば「土地」「のれん」「買掛金」「売上高」「のれん償却」で10点取れます。本問はこれだけでじゅうぶんです。
できれば解答したい取引(⑩~⑫)
ここから下の処理は少し難しくなりますが、正解に処理できれば「借入金」「支払利息」で4点を上積みすることができます。解答時間に余裕がある場合は積極的にチャレンジしましょう。
親子会社間の手形に関する仕訳
次は手形の金額の不一致を修正します。
問題資料3の②の「S社がP社から受け取った手形120,000千円のうち、70,000千円は買掛金の支払いために仕入先に裏書譲渡され、50,000千円は銀行で割り引かれた」から、P社とS社が個別会計上でどのような仕訳を切ったのかが分かります。
(貸)支払手形 120,000
(貸)? ×××
(借)買掛金 70,000
(貸)受取手形 70,000
(借)現金預金 49,760
(借)手形売却損 240
(貸)受取手形 50,000
上記の仕訳の結果、問題資料3にもあるように(P社の)支払手形120,000千円が残っているにも関わらず、(S社の)受取手形が0円(=120,000千円-70,000千円-50,000千円)になります。
ここから先は「裏書譲渡に関する部分」と「割引きに関する部分」に分けて考えましょう。
まず「手形の裏書譲渡に関する部分」については、連結グループ全体で考えると買掛金を支払うために支払手形を振り出した形になります。
つまり、連結会計上も(仕入先に対する)手形代金の支払義務が残るため、支払手形120,000千円のうちの70,000千円については相殺せずにそのまま残します。
一方、「手形の割引きに関する部分」については、連結グループ全体で考えると借り入れをするために手形を振り出した形になるため、支払手形120,000千円のうちの50,000千円については借入金に振り替えるとともに、手形売却損を支払利息に振り替えます。
なお、支払利息に振り替えた240千円のうち160千円は、当期末から満期日までの期間にかかるもの(=翌年度に支払利息として処理すべきもの)なので、支払利息からさらに前払費用に振り替えます。
(貸)借入金 50,000
(借)支払利息 240
(貸)手形売却損 240
(借)前払費用 160
(貸)支払利息 160
さらに、問題資料3の②に「S社の手形売却損2,600千円はすべてP社から受け取った手形の割引によるものである」とあるので、上で処理した240千円以外の2,360千円(=2,600千円-240千円)についても、手形売却損を支払利息に振り替えます。
(貸)手形売却損 2,360
以上で債権・債務および内部取引の相殺消去に関する処理は終了です。
なお、答案用紙の修正・消去欄の解答スペースがひとつ(1行)しかないものは、金額をひとつにまとめて記入しましょう。
- 売掛金:210,000千円+66,000千円=276,000千円(貸方)
- 買掛金:210,000千円+66,000千円=276,000千円(借方)
- 売上高:910,000千円+363,000千円=1,273,000千円(借方)
- 支払利息:240千円+2,360千円=2,600千円(借方)
- 手形売却損:240千円+2,360千円=2,600千円(貸方)
解答する必要のない取引(⑬~⑯)
ここから下の処理は格段に難しくなります。正答率はおそらく0.1%以下です。
時間をかけて取り組んでも正解にたどり着ける可能性はかなり低ですし、点数の上積みも「製品及び商品」「原材料」「非支配株主持分」の6点だけなので、はっきり言って費用対効果が悪いです。
解答時間に余裕がある場合でも無理して挑戦せずに、他の問題の解答・見直しにあてることをおすすめします。
棚卸資産に含まれる部品Aの未実現利益の消去に関する仕訳(ダウン・ストリーム)
まずは、期末棚卸資産に含まれる部品Aの未実現利益から考えましょう。
問題資料4の「連結第4年度末にS社の個別財務諸表に計上されている原材料には、P社から仕入れた商品が…13,200千円含まれていた」と、問題資料3の①で追加計上した原材料6,600千円から、子会社が個別会計上で計上している原材料のうち、親会社から仕入れた部品Aの19,800千円(=13,200千円+6,600千円)に未実現利益が含まれていることが分かります。
未実現利益の金額は、問題資料1の(2)の「P社は部品Aの販売時にその調達価格の10%を加えたものでS社に販売している」から、以下の計算式で求めることができます。
子会社の原材料に含まれている未実現利益=19,800千円×0.1/1.1=1,800千円
また、問題資料4の「連結第4年度末にP社の個別財務諸表に計上されている「製品及び商品」のうちS社から仕入れた製品(付属機器B)は…78,000千円であった」から、親会社が個別会計上で計上している「製品及び商品」の78,000千円には、親会社が子会社に部品Aを販売するさいに付加した未実現利益と子会社が親会社に付属機器Bを販売するさいに付加した未実現利益が含まれていることが分かります。
2つの未実現利益の金額は、問題資料1の(2)の「P社は部品Aの販売時にその調達価格の10%を加えたものでS社に販売している」「S社は付属機器Bを製造原価に30%の利益を加えた価格でP社に販売し」から、以下の計算式で求めることができます。
親会社の「製品及び商品」に含まれている(子会社が親会社に付属機器Bを販売するさいに付加した)未実現利益=78,000千円×0.3/1.3=18,000千円
上記の計算結果から、親会社が個別会計上で計上している「製品及び商品」の78,000千円のうち、18,000千円が子会社が親会社に付属機器Bを販売するさいに付加した未実現利益で、残りの60,000千円が付属機器Bの原価であることが分かります。
この付属機器Bの原価60,000千円には、親会社が子会社に部品Aを販売するさいに付加した未実現利益も含まれているため、問題資料5の付属機器Bの製造原価の構成データを使って部品Aの金額およびそれに含まれる未実現利益を計算しましょう。
- 付属機器Bの原価60,000千円の内訳
- 部品A:60,000千円×33%=19,800千円
- その他の材料費:60,000千円×34%=20,400千円
- 加工費:60,000千円×33%=19,800千円
親会社の「製品及び商品」に含まれている(親会社が子会社に部品Aを販売するさいに付加した)未実現利益=19,800千円×0.1/1.1=1,800千円
子会社の原材料に含まれている未実現利益および親会社の「製品及び商品」に含まれている未実現利益が計算できたら、未実現利益の金額分だけ子会社の原材料および親会社の「製品及び商品」を減額するとともに、連結会計上の売上原価を増額することにより未実現利益を消去します。
(貸)原材料 1,800 ※8
(貸)製品及び商品 1,800 ※9
※8 (13,200千円+6,600千円)×0.1/1.1=1,800千円
※9 78,000千円×1/1.3×33%×0.1/1.1=1,800千円
次に、期首棚卸資産に含まれる部品Aの未実現利益を考えましょう。
基本的な考え方・処理の流れは上述の「期首棚卸資産に含まれる部品Aの未実現利益」と同じです。連結第3年度のデータを使って金額を求めましょう。
なお、開始仕訳については連結損益計算書項目である「売上原価」を「利益剰余金」に置き換えて処理します。
子会社の原材料に含まれている未実現利益=16,500千円×0.1/1.1=1,500千円
親会社の「製品及び商品」に含まれている、子会社が親会社に付属機器Bを販売するさいに付加した未実現利益=65,000千円×0.3/1.3=15,000千円
- 付属機器Bの原価50,000千円の内訳
- 部品A:50,000千円×33%=16,500千円
- その他の材料費:50,000千円×35%=17,500千円
- 加工費:50,000千円×32%=16,000千円
親会社の「製品及び商品」に含まれている(親会社が子会社に部品Aを販売するさいに付加した)未実現利益=16,500千円×0.1/1.1=1,500千円
(貸)原材料 1,500 ※10
(貸)製品及び商品 1,500 ※11
(借)原材料 1,500
(借)製品及び商品 1,500
(貸)売上原価 3,000
※10 16,500千円×0.1/1.1=1,500千円
※11 65,000千円×1/1.3×33%×0.1/1.1=1,500千円
棚卸資産に含まれる付属機器Bの未実現利益の消去に関する仕訳(アップ・ストリーム)
まずは、期末棚卸資産に含まれる付属機器Bの未実現利益から考えましょう。
上の計算で、親会社の「製品及び商品」に含まれている(子会社が親会社に付属機器Bを販売するさいに付加した)未実現利益が18,000千円であることが判明したので、未実現利益の金額分だけ親会社の「製品及び商品」を減額するとともに、連結会計上の売上原価を増額することにより未実現利益を消去します。
また、付属機器Bは子会社が親会社に販売しているため、アップ・ストリームに該当します。よって、消去する未実現利益のうち非支配株主持分の20%については非支配株主に負担させます。
非支配株主の負担分=18,000千円×20%=3,600千円
(貸)製品及び商品 18,000
(借)非支配株主持分 3,600 ※13
(貸)非支配株主に帰属する当期純利益 3,600
※12 78,000千円×0.3/1.3=18,000千円
※13 18,000千円×20%=3,600千円
次に、期首棚卸資産に含まれる付属機器Bの未実現利益を考えましょう。
基本的な考え方・処理の流れは上述の「期首棚卸資産に含まれる付属機器Bの未実現利益」と同じです。連結第3年度のデータを使って金額を求めましょう。
上の計算で、親会社の「製品及び商品」に含まれている(子会社が親会社に付属機器Bを販売するさいに付加した)未実現利益が15,000千円であることが判明したので、未実現利益の金額分だけ親会社の「製品及び商品」を減額するとともに、連結会計上の売上原価を増額することにより未実現利益を消去します。
また、付属機器Bは子会社が親会社に販売しているため、アップ・ストリームに該当します。よって、消去する未実現利益のうち非支配株主持分の20%については非支配株主に負担させます。
非支配株主の負担分=15,000千円×20%=3,000千円
なお、開始仕訳については連結損益計算書項目である「売上原価」および「非支配株主に帰属する当期純利益」を「利益剰余金」に置き換えて処理します。
(貸)製品及び商品 15,000
(借)非支配株主持分 3,000 ※15
(貸)利益剰余金 3,000
(借)製品及び商品 15,000
(貸)売上原価 15,000
(借)非支配株主に帰属する当期純利益 3,000
(貸)非支配株主持分 3,000
※14 65,000千円×0.3/1.3=15,000千円
※15 15,000千円×20%=3,000千円